第44話


このお巡りさんは父が亡くなったことを知っているようだった。



「小さい街…って言うかほとんど村ですけど、紫藤さんはこの辺でも有名ですからね。噂はすぐ回るんですよ」



お巡りさんは当たり障りのない返答で苦笑い。



「気を悪くされたらすみません」



「いえ、僕らも昨日聞いたばかりでびっくりして」



「そうですよね。本当に…不幸と言うのは予想もしてないときに、予想もしてなかったタイミングできますからね…」



青年は言葉を選ぶように慎重に答え、



「あ、そうそう!山名さん。これお店に貼っておいてください」



慌てて手に抱えていたポスターのような大判の紙を広げる。



そのポスターには“空き巣注意!”と赤い文字が大きく書かれていた。



「空き巣?っても、狙うような家なんてねぇじゃん」



と奏太が木彫りの熊をしげしげと見つめながら笑う。



「奏太!」



僕は嗜めるように奏太のわき腹を小突いて、「すみません」と慌ててお巡りさんに向き直った。



「いえ、まぁ確かにこの辺は民家が少ないですけど。もう少し行くとちらちらと見えてくるんですよ。



この一週間で立て続け三件も。



田舎ですからね、みんな安心しているせいかセキュリティも甘くなっていますし。警戒心が強くてしっかりセキュリティをされている都会の方よりこっちの方が狙いやすいってことですかね。



全く、けしからん輩もいるもんですよ」



お巡りさんはちょっと眉を吊り上げて鼻息を吐く。



「紫藤さんのお宅も気をつけたほうがいいですよ。何せこの街…いや、もしかしたらこの県一の大富豪であられますからね」



お巡りさんは神妙そうな面持ちで頷いた。



大富豪…と言うところで僕は思わずまばたきをした。



「お金持ちは色々大変だな。わしんとこは狙うもんもねぇからよぉ、気軽なもんだ」



山名と呼ばれた老人がカラカラ笑い、



「ところでシシトウさんとこ何やってるんだい?大富豪って言うから社長さんかい??」



とのんびり聞いてくる。



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