第40話


「次、バス来るのいつ?」



僕が聞くと、



「三十分前に行ったばっかり。次は二時間後だ」と奏太が呆れたように宙を見る。



「嘘」



「マジで。昔もど田舎だと思ったが、昔より退化してね?」



高台の―――屋敷は元々父さんの別荘……と言うのにはいささか豪華過ぎるが、僕が家を出る前からあったけれど、実際行ったことはない。



因みに本宅で使用していた東京郊外の一軒屋は僕が家を出てすぐに処分したようだ。奏太はこの別荘……今はそこが本宅なのだろうが、彼が高校生のとき一回来たきりだと言う。



その屋敷は昭和初期の時代に、海外の外交官の屋敷だったらしい。



外交官の末裔の人間が一応名義だけ受け継いだ形になっていて、父さんがその敷地と建物全てを買い取った、と聞いた。



つまり建物自体は新しいものではなく、昭和初期……と言ったがはっきりとは分からず、大正か…もしかして明治時代から受け継がれたものかもしれない。そうだとすると末裔の人間も取り壊すことを躊躇う理由が分かる。彼らは喜んで売りに出したようだ。



「何で親父はこんな場所に家を持とうと思ったンかねー」



「さぁ。あの人の考えてることは僕にはさっぱりだ。芸術肌っての?」



僕は半分ほど吸ったタバコを近くの古びた灰皿に押し付けて腰を上げた。



「どうするんだよ」



奏太が目を上げて聞いてくる。



「タクシー…か、レンタカーでも探そうかと」



「無駄だ。レンタカー屋なんて気の利いたもんあると思うか?俺もタクシー拾おうと思って三十分待ってみたが、一台も通らなかったぜ」



三十分……



気が短い奏太にしては待った方だ。



「とりあえず歩こう。ここでこうやって待ってるよりその方が早い」



「歩くったって、屋敷までどれぐらいあると思ってんだよ。車だって30分は掛かるぜ?」



「途中でタクシーが通りかかったら拾えばいいじゃないか。ここで待ってる時間が無駄だ」



幸いなことに僕はこう見えて球技意外の運動は好きなのだ。歩くのも苦にならないだろうし



早く花音の元へ駆けつけてやりたい、その想いで一心だったのか。



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