紫藤ブラザーズ

第39話


■紫藤ブラザーズ



東京から新幹線と電車を乗り継ぎ、辿りついた街。街と呼ぶにはあまりに寂しいさびれた場所だ。



一時間に一本と言う電車に揺られて、誰も降りないような無人駅に降り立ったのは昼近くになっていた。



駅を降りたはいいが、家があるのはさらに山奥の高台だ。



鬱蒼と木々が生い茂る森の中にぽつんと建った屋敷がそうだが、その付近まで向かうバスは二時間に一本。タクシーでも拾おうかと思ったが、それすらも見当たらない。



こんなことなら車で来るべきだったか。



計算だけは得意なのに、タイムテーブルが旨く計算できなくてイライラした面持ちで、バス停の待合室を覗くと、



姿勢の良い、見知った姿が古臭いベンチに腰掛けていた。180cm以上ある上背はスラリとスタイルが良く、



シンプルな白いシャツとジーンズと言う姿だったが、どこか華やかなオーラを纏っていた。



洗練された都会の男を思わせるその格好は、この古びたバス停にひどく不釣合いだ。



男はぼんやりと定まらない視線を遠くへ向けて、タバコを口にくわえている。



「何、お前も待ちぼうけ?」



久しぶりに会ったと言うのに、僕は挨拶もせずそっけなくその男に声を掛けた。



奏太が顔を上げる。



「よぉ」



弟は短く声をあげて僅かに手を挙げる。



まるで長年付き合っている友人に向けるような気軽な挨拶だった。



奏太の髪に思わず目がいった。今回は黒い髪に所々銀色のメッシュが入っている。



「あー…これな?急だったから美容院もいけなくてな~」



奏太が髪の先をつまんで笑う。



「お前は相変わらず真面目そうだな」



僕は喪服のスーツ。ネクタイはなしで上着は肩に掛けてある。



無難な格好をからかうように言われて、僕は肩を竦めながらも奏太の隣に腰を降ろした。



「お兄様に向かって“お前”はないだろ」



「は。誰がお兄様だって??俺、お前を兄貴だなんて思ったことないし」



奏太は意地悪そうに笑って、タバコを勧めてきた。



僕は勧められるまま大人しくタバコを一本手にとる。



前回こいつと別れるとき、次に会うときが





父親の葬儀なんて






互いに想像もつかなかっただろう―――



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