第38話


その日は一睡もせずに、翌朝、喪服と数日の着替えを詰め込んだバッグを持って僕は朝一番の新幹線に飛び乗った。




―――…



『葬式、どうする?お前は来るか?因みに明日が通夜っての…?ちょっと変わった式らしいぜ?』



ちょっと変わった式ってのが気になるが、あまり突っ込んで聞く気にもなれなかった。恐らく奏太も知らないだろうし。



『式はごく僅かの音楽関係者と親族だけの密葬…て言うのか、あれは。にするそうだ。マスコミには訃報のファックスだけ流すって。お前、来るか?』



またも聞かれ



「何をバカなことを聞くんだ。行くわけないだろ。大体僕はあの人に勘当されたも同然なんだよ」



そっけなく答えたが、



『そりゃ俺だって同じだ。でも花音が来てくれって言ってきてるんだよ。



お前も呼んでくれって』



その言葉を聞いて、僕は目を開いたままその場で固まった。





花音





その名前を聞いて、胸の奥が不快にざわりと音を立てる。



『あいつ、親父の最期までほとんど一人で看病し続けてたみたいだぜ?最後の最期ぐらい兄さんたちに会って欲しいって。それに間が悪いって言うのか…



明日は、花音の誕生日だろ』



花音の母親…僕にとって三番目の母親は、僕が家を出たのち数年して、亡くなったと奏太から聞いた。



詳しい原因は知らないが、どうやら病死だったらしい。



病で亡くなるにはあまりにも早い年齢だったが、昔から病弱な感じの儚げな人だったのは確かだ。



母親に似たのか、娘である花音もそうゆう雰囲気があった。





―――父親を送り出すつもりはなかったが、



亡くなった後に一人取り残された花音が来てくれと言ったのを聞いて、





いてもたってもいられなくなった。



それに、奏太が言った通り明日は



花音の誕生日だ。




僕の可愛い妹。




愛しいひとが―――ここ東京から遠く離れた場所でひっそりと涙を流している。僕たちを待っている―――かと想うと、



今すぐその涙をぬぐって、この手で抱きしめてやりたい。



「ご苦労だったね。よくがんばった」



たった一言、そう声を掛けたい―――






僕は死んだ父親に呼ばれた―――と言うより、




たった一人愛した人に呼ばれて








新幹線と電車を乗り継ぎ、





この街に来ていた。



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