第35話


妻のことをないがしろにしてるわけじゃないけれど、本当にここ最近仕事が立て込んでいて疲れているんだ。



正直、月末締めの成績ノルマでさえ厳しかったが、最後の最後に約一ヶ月も掛けて口説き落とした客の大口販売が効いたと言える。



ほっとして気が抜けたってのもある。今は妻を抱くよりも、ぐっすりと眠りたい。



僕はぎこちなく口の端を吊り上げてこの話題から逃げようとするも、



「あなた、もしかして…」と妻が一層眉を吊り上げて僕を睨んできた。



「何?」



「……もしかして、あなたに限ってそれはないと思ってたけど、もしかして浮気…?」



「は?」



予想外の問いかけに僕は間抜けに答えてしまった。



「バカな。そんなことあるはずないだろう」



たった一人の妻でさえ持て余しているのに、他の女に構う余裕なんて僕にはない。



あまりにも馬鹿げた発言に僕は怒り出すというよりも、むしろ笑い出してしまった。



「…何よ」



妻は拗ねたかのように顔をぷいと背ける。



寝たかった…けれど、一度機嫌を損ねると、これから二三日は夕食が極端に質素になる。ま、可愛い嫌がらせだけれど。



「悪かった。僕が悪かったよ。確かに最近すぐ寝ちゃってたから。だから機嫌直して」



妻の肩を抱き寄せたが、それでも妻はつんと顔を逸らしたまま。



「ホントにごめん」



宥めるように耳元で囁いて、彼女の細い顎をこちらに向かせると―――僕たちは口付けを交わした。



妻も本気で僕が浮気をしていると疑ってはいなかったのだろう。



すぐに機嫌を直したように僕の口付けに応える。




僕たちは抱き合ったまま、ベッドに崩れた。



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