第33話


結婚して二年。



僕は今年で30、妻は28。



古くから付き合いのあるスタッフたちは僕たち夫婦のことを知っているから、



「そろそろ子供は?」



と聞かれるが、その気配はない。別に焦っているつもりもない。




僕の方は…―――




「ねぇあなた。今日産婦人科行ってきたの」




ワイシャツを脱いでいた僕の手が止まった。




「うん、それで?もしかして……」



僕はことさら何でもないようにボタンを外しに掛かった。



「それで?ってそれだけ??ちなみに妊娠はしてないわよ」



妻は唇を尖らせる。



「じゃあ何で病院に行ったのさ。どこか調子悪かったの?それなら僕に相談してくれれば」



「調子悪くないわよ。いつもの定期健診。ほら、一年に一度の子宮がん検診」



「ああ…そうか」



そう答えるしかない。



「結果は二週間後だけど、たぶん大丈夫だと思うわ。ねぇ響、私そろそろ本気で赤ちゃんが欲しいのよ」



このところ、妻は「子供が欲しい」とまるで口癖のように呟く。



別に夫婦仲が特別悪いわけでもない。夜の営みが皆無なわけでもないし、結婚してもう二年経つのにできないのはタイミングなのだろうか、



それともどちらかに問題があるからだろうか。



ちなみに僕は調べていないから分からない。



「子供なんて天からの授かりものだ。そのうちできるよ」



といつもの台詞で宥めていると、



「あのねぇ。初産は色々大変て言うから、私はなるべく早く生みたいのよ。



私はあなたとの赤ちゃんが欲しいの」



妻はいつになく真剣な顔で僕を真正面から見つめてきた。



妻は僕に何か大事なことを言ったり、聞くときは必ず真正面から僕を見てくる。



それは僕の右耳の聴力障害のことを知っているからだ。



ただ、そこに至るまでの経緯は彼女に話していないが―――



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