第28話


『響兄さん、奏太兄さん』



一番最初に会ったとき当時彼女は十歳だったが、その純真で無垢な―――まるでなでしこを思わせるような笑顔に



心奪われた。



新しい家族を受け入れないつもりはなかったけれど、あまりにも素直に「兄さん」なんて呼ばれて、くすぐったいのと凄く嬉しかったのを覚えている。



僕たちにとってははじめての“妹”ができたからだろうか。



「私きょうだいっていなかったから、お兄さんかお姉さんがほしかったの、だから嬉しい」



と花音は微笑んでいた。



まるで小鳥のような無垢で純粋な彼女の存在は、ぎくしゃくしがちだった家族を和ませてくれた大きなものだった。



どんなにヴァイオリンの練習が辛かろうと、ライバルたちからどんなに嫌がらせをされようと、



彼女の笑顔を見ると癒されて―――救われた。



美しく聡明で心優しい彼女は、女性としても素晴らしかったが、



何より彼女のヴァイオリンの才能は素晴らしいものがあった。



溢れん才能があるばかりか、彼女は父の期待に押しつぶされることなく、いつでもヴァイオリンを弾くことを楽しんでいた。



『練習が辛いなんて思ったことはないわ。むしろ楽しいの。早く弾きたくうずうずしてる』



ちょっと悪戯っぽく笑う彼女の笑顔を








今でも忘れない。






父親もまた彼女の才能を高く評価していた。



「花音はまさに天から恵まれた子。才能に愛された子」



そう言って随分と可愛がっていたことも覚えている。



僕も奏太も嫉妬はしなかった。



その時すでに、僕らは自分の中で才能に見切りを付けていたし、同性じゃなかったのも幸いだったのだろう。



何より可愛い妹の活躍を素直に喜んでいたのは、僕たち兄だった。



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