第25話
まるで上質な絹糸のような黒い髪、透き通る白い肌。
大きな目にすっととおった鼻筋。僅かに口角があがった印象的な赤い口元。
彼女はその美貌で一躍有名になったが、それ以上にヴァイオリンの才能も世間に認められていた。
一見して、儚げで可憐な美少女のようだが、彼女の弾くヴァイオリンは力強くアグレッシブだった。
時に元気な少女。時に男を誘惑する妖艶な大人の女。時に上品で純粋な女。
彼女がヴァイオリンを弾くと、実に様々な表情が見える。不思議な―――女だった。
それまでクラシックに縁の無かった若者たちも、これを機にクラシックに興味を持った者も多いとか。
まさに美貌のヴァイオリニストはクラシック界のシンデレラになったわけだ。
業界側の狙いは当たり、彼女はたちまち有名になった。
テレビで彼女の姿を見ると、僕は思わずその画面を消し去りたくなるが、
実際リモコンを握ったまま、“OFF”のボタンに指を置いたまま、結局押すことはできずに
テレビの中の彼女に魅入った。
彼女は数年間程テレビやコンサートで活躍していたが、ここ数年姿を消している理由―――……
それは、病に伏した父を看病するために
田舎の山奥にある屋敷で生活しているから―――……奏太からそう聞いた。
奏太の話によると、父親は余命いくばくもないとか。
花音は父親っ子だ。
実際十まで、未婚の母親と二人きりの生活だった為、父親の愛情を知らない不憫な子だった。
だから僕の父と、花音の母親が結婚して、僕たちが家族になったときは
花音は凄く嬉しそうにしていた。
素直な花音。
優しい花音。
でも、彼女の中にもう一人の―――正反対な花音が存在する気がする。
燃え盛るような情熱と、激しい感情。
黒と白。
あのCMは
うまく作られていたと思う。
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