第24話
「そいやぁ花音最近テレビで見ないよな~。前はCMとかちょこちょこ出てたのに」
「ああ、靴ブランドのCM。あれ良かったよな」
と、今度は男陣がちょっと楽しそうに会話を弾ませる。
あのCMは僕も覚えている。黒いドレスに身を包んだ花音がヴァイオリンを奏でているシーン。
華奢な白い肩が剥き出しのビスチェ風のドレス。前はスカート丈が短く花音の白くて細い脚が眩しい程だった。後ろは腰の辺りからふわふわした素材の裾がつま先まで広がっているちょっと変わったデザイン。
それは既存のクラシックではなく初めて聞く曲だった。緩やかなメロディの中に時折力強さが垣間見える。いい曲、だった。まるでドレス姿の花音の華やかさまで計算されたような。
花音が弾いているヴァイオリンの音に乗せて、クローズアップされた…繊細なデザインのヒールパンプスが上下左右にステップを踏み、まるでバレエを演じている華やかで軽やかな動きと共にその足元に広がった裾が優雅に舞う。そんなシーンが印象的だった。普通に弾くだけでもかなりの難易度なのに、花音は見事に演じていた。
画面はモノトーンで、派手に靴をCMしているわけではないのに、そのシンプルさと彼女の美しさが際立っていた。
『私を輝かせる一足。宝石を選ぶように靴を選びましょ』
クローズアップされた花音がヒールパンプスとヴァイオリンを胸に抱きながら、少女のような柔らかい微笑みをカメラ目線で向けて、たった一言最後に呟くフレーズは
随分と流行ったものだ。
そしてそれに続くように第二段のCMが流れ、黒が基調だった背景を一新、
白い背景に少しデザインは違うが白いドレス、白い靴で
『待ってるだけの女にはなりたくない。王子さまは自分で探しにいくの』
と挑発的な…色っぽいとも言える笑顔を向ける花音。
黒と白。
対照的な二つのCMを見事にこなした、花音。
その靴ブランドで、彼女が履いていた靴を求める女性客が殺到したとか。
彼女の名が一般の人たちにも知れ渡ったのは、このCMがきっかけだった。
あのCMに出てるのは女優?モデル??と、CM制作会社に問い合わせが殺到、SNSで話題にもなり、そのすぐあとにタイミングを見計らったように花音の初CDが発売された。
美貌のヴァイオリニストの“花音”は一躍有名になった。
僕が家を出て、三年後の話。
彼女が二十歳のときの話だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます