第21話


その曲は十年ほど前に活躍した、十年前の当時“歌姫”ともてはやされた女性歌手の最新シングル曲だった。



一時は出す曲出す曲全部ハズレて、最近はとんと見なかったがこの曲がヒットし最近テレビで良く見る。



しっとりとした旋律に、歌い手独特の甘くて柔らかい歌声が綺麗にのっている。歌い手の音域と喋るときのリズムに合わせた曲。



それまでのアイドル然としたイメージから一新、大人の女の魅力を感じる。





歌い手の長所を良く引き出しているのはさすがと言うべきか―――…






「あいつ……食ったな…」






思わず本音が出てしまって、



「え?あ、わり!これ紫藤の!?」と目の前で皿に残っていた最後の焼き鳥を手にした同僚が申し訳無さそうに目をぱちぱち。



「…あ、いや!独り言だよ」慌てて手を振る。



「やっぱKANATAの曲っていいよね~」



「ねぇ~♪バラードからロックまで幅広く手がけて、出す曲ほとんどヒットだもんね~」



「こんな歌作る人ってサ、やっぱきっとすごく繊細だろうね」



「ねー♪テレビや雑誌で見たことないけど、マスコミ嫌いらしいよ?何かミステリアス♪どんな顔してるんだろ」



女性陣がうっとりと宙を見つめ、僕は思わず苦笑い。



「きっとすっげぇブサイクなんだよ。それかハゲオヤジだ」



と男の同僚たちが面白くなさそうに唇を尖らせている。



ブサイク……ではないと思うけど、間違いなくハゲオヤジではない。



無造作にセットされた髪は、会う度に色が変わっている。そのうちハゲるかもしれないな…



まぁハゲる家系ではないから、大丈夫だとは思うけど。



って…僕が何であいつの髪の心配なんてしなきゃならない。




それにしても、



繊細……ミステリアス…ね…



ミステリアスと言えば聞こえはいいが、まぁ少し秘密主義なところはあるな。



だけどあいつは“繊細”とはおおよそ掛け離れている。



背もでかけりゃ態度もでかい。俺様でわがままで、自信家で、気ままで、



女好きで―――



僕と正反対な性格、絶対に『友達』にはしたくないタイプだ。可愛げもないし。






“弟”ってそんなものか……?



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