第19話


店のメンバーで来たのは安っぽい居酒屋だった。



男女合わせて八人程になった。あの後



「店どこにする~?」と話し合っていると、片付けを終えた後輩やらが出てきて一緒に来ることになったのだ。その中の一人、さっき僕にヴァイオリンのメンテを頼んできた女性社員も居る。



ドキリ、として思わず彼女から顔を逸らすと、彼女は意味深な笑顔を向けてきた―――ように感じた。



居酒屋は食べ物とタバコの匂いが入り混じり、活気ある店員の掛け声が飛んでいる。店はほぼ席が埋まっていて、客はほろ酔い、賑やかな盛り上がりを見せている。



だけどこうゆう店の方が安心する。



息も詰まるようなフランス料理のコースだとか、想像も出来ないほど豪華な会席料理だとかは



もううんざりだ。



仕事のあとの生ビールほどおいしいものはない。



このたくさん入ればそれでいいと言う目的だけに作られたような素っ気無いジョッキも、やたらと手に来る重圧感も



僕がこの世界に溶け込んでいると実感できたから。



だけど異世界から、またもふと元居た世界に戻らされる瞬間はある。



「紫藤先輩の指♪きれ~い!さっすがヴァイオリニストの手♪ほんと綺麗」



僕の左側に座った、見るからに甘そうなカクテルを飲んださっきの後輩女性が意味深そうに言って僕の手をおもむろに握ってしげしげ。



しきりにヴァイオリニストと言い、わざとそのワードを強調して言う。その声はグラスに入ったカクテルのような甘ったるくて、僕の眉がぴくりと動いた。



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