第18話


―――…「…とう、紫藤。おぅい大丈夫かぁ?お前行くの?」



同僚の一人が僕の前で手のひらをひらひら。



「う、うん」



まばたきをすると、まるで泡のように“彼女”の姿が消えた。



「行ける?急に誘ったからどうかな~って思ったけど」



「紫藤には可愛い嫁さんが家で待ってるもんな♪」



またも茶化すかのように言われて僕は苦笑い。






「行くよ。今日は―――…




飲みたい気分なんだ―――」






僕は作成途中だったメールを閉じて、スマホをスーツに仕舞いいれた。



指に挟んだタバコの先から紫煙が立ち上っている。





空へ空へ―――ひたすらに昇っていくその様を見ても、僕の気持ちはその反対で



下へ下へ―――ひたすらに沈んでいく。






引きずり込まれる。



過去の自分に。



呼び寄せられる。



あの恐ろしいまでの感情に―――






愛してる





愛してる







 愛 シ テ ル







僕が“彼女”…いや、




“妹”に向けたあの言葉も



たった一度、この手で触れた彼女の肌の香りや体温―――…思い出も





たった一度の過ちも






酒で流せたら






そうなれば、どんなにか楽だろう。






だけどそうにはいかない。



どんなことがあっても僕が犯した罪は―――消えないのだ。





「私から逃げられない」







またも彼女―――





花音かのん”の声が聞こえた気がして―――僕は誰にも気付かれないよう、そっと息を吐いた。



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