紫藤ファミリー

第12話



■紫藤ファミリー




『幸せ』と言うものを考えてみる。



それは当たり前のように溢れているのに、



でも僕たち人間は、意外とそれに気付かないまま日々を過ごしている。



当たり前に感じ過ぎていて、『平穏』と言うのがいかに幸福であるか



気付かないでいるのだ。







例えば―――



「当店“Fineフィーネ”の今月の売上高、純利益高第一位は






紫藤 響しとう ひびき






パチパチパチ…



フロアに集められたスタッフたちが拍手を起こし、照れくさい様子を装って、わざとらしくない程度で僕は小さく頭を下げた。




僕の勤めるのは東京郊外にある小さなアンティークショップ。



と言っても、扱っているものは家具や調度品よりも楽器がメインだ。



年代物のピアノやヴァイオリン、その他もろもろ。



もはや楽器として用をなさない、僕から言わせてもらうと「誰が使うんだ、こんなもの」とガラクタ扱いでも、驚くほどの高値で売れる。



「ありがとうございます。手助けしてくださった皆様のお陰です」



毎月、月末の締め日に発表される成績が好調であっても、お決まりの台詞で用意してきたかのような笑顔を張り付けて。



僕がこの店に就職したのは、アンティークが好きとか楽器が好き…とかそんな理由じゃない。





単に離れられないだけだ。





家を出ても、捨てても尚もつきまとってくる影―――






この体に流れる“紫藤”の血から―――









それとも少しでも“音楽”と関わっていると、



またどこかで“彼女”と繋がっていられると思っているのだろうか―――








捨てたのは、“紫藤”と言う名前か





それとも






あの狂おしいほどの―――感情なのだろうか



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