第29話


まぁ親父に限って娘程の歳の女に手を出すとは考えにくいが、それでも一応…ね。



「と、ところでさっ。親父と何話したの?」



『…何って、昔の話とかニューヨークに居た頃の話とか、あとはうちの両親の話ですかね…。それが何か?』



怪訝そうに声が低まった。



「あ…いや!ちょっと気になっただけで」



親父~!!柏木さんに変なこと言ってねぇだろうな!!!



でも



聞きたいことはそんなことじゃない。



「あの…さ、小さいころ……軽井沢…別荘で……」



ああ!くそっ!!聞きたいことがあるのに、どうしてスムーズに言葉が出てこない!!



『小さい頃、軽井沢、別荘?何の暗号ですか?』



まるで真冬並みの冷たい返答が返って来て、俺は凍りそうになった。



「いや……気にしないでクダサイ」



『変な人……。まぁ部長が変なのは、今に始まったことじゃないですけど…』



グサっ!



相変わらず柏木さん、ひでぇや。



でもでも



ラブ、です。




『何か良く知りませんが、明日も宜しくお願いします』



明日も……



俺は深い瑠璃色をした空を見上げた。



でも東京の街では、空気が濁っているのか、星の輝きさえも濁っている。




軽井沢で見上げた空は



どんな風だっけ?




思い出せない。




でもここよりも空気が澄んでることは間違いないから、きっと夜の星も綺麗だったんだろうな。







この濁った空気の空がやがて明けると、




朝がやって来る。




そして俺はまた、君と会える。





社内恋愛は中々大変だと言うことを裕二と綾子は語ったが、大好きな人の顔を毎日見れることはやっぱり幸せで、




働く意欲と活力を与えてくれる。








「また明日。おやすみ」




俺は柏木さんに送るつもりで、ちょっと微笑んで通話を切った。




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