第92話

「このままだと、他の人に間宮のこと取られちゃいますよ」



天野が詰め寄り、教科書のノドの部分をぐりぐりと押して広げていた右京が、その動きを止める。



「……選ぶのは美紅の自由だろ」



「でも、ちゃんと言わないと、いつまで経っても伝わらないままじゃないですか」



「……」



右京が何も言い返せずに黙った時、



「右京先輩」



聞き慣れた愛しい声に呼ばれて、右京は反射的に顔を上げる。



机を挟んだ向かい側に、険しい表情をした美紅が立っていて。



「天ちゃんから、先輩が図書室で待ってるって連絡もらって。先に帰って下さいって、私、ちゃんと今日も言いましたよね?」



美紅に言われ、右京が慌てて隣の天野を睨むと、しれっとそっぽを向いた天野にその視線をかわされた。



「もう終わったのか?」



期待を込めて、とりあえずそう訊ねると、



「待たなくていいですって伝えるためだけに、抜けてきました」



「……」



冷たく突き放されて、右京は黙る。



「そもそも、ちゃんと彼女のいる人が、なんで私なんかに構うんですか?」



美紅の泣きそうなその声に、



「えっ。先輩、彼女いるんですか」



大きく反応したのは天野だった。



「話がややこしくなるから、天野は黙っててくれるか」



右京はまた隣の天野を慌てて睨みつけた。

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