第91話

右京の許可がまだ下りていないが、天野はニヤニヤしながら右京の隣に腰を下ろした。



「……お前。もし美紅の前でその呼び方したら、永久的に焼きそばパンとメロンパンが手に入らないようにしてやるからな」



この高校の購買のおばちゃんは、実は右京の大ファンを名乗っていて。



右京が『天野には売らないでくれ』などと頼もうものなら、きっとおばちゃんは言いなりになってしまう。



……実際には、そんなことをするわけがないけれど。



それでも天野にはその台詞は効果てきめんで、



「大丈夫です! 間宮の前に限らず、二度とそのような呼び方は致しません!」



右京に向かって慌てて頭を下げた。



「でも、あの……なんで間宮に苗字知られたくないんですか?」



「お前……間違っても“右京”の方が下の名前だなんて、絶対に美紅に言うなよ」



右京に思い切り睨みつけられて、



(えっ……間宮って、右京先輩のこと苗字で呼んでるつもりだったの!?)



そんな事実を思い知って黙ってしまった。



が、ここで引き下がったら、わざわざ天野がここまで右京を追いかけてきた意味がない。



「間宮に告白しないんですか?」



「……図書室では私語は厳禁だぞ」



右京は今更ながらにそんなことを注意して、英語の教科書を開いた。

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