第90話

美紅が放課後の生徒会に参加するため、この日一緒に帰ることを断られた右京は――



また図書室で宿題をしながら、美紅が終わるのを待つことにした。



右京が図書室に一歩入ると、室内にいた女子生徒は小声ながらも一斉に黄色い悲鳴を上げる。



それらを一切無視しながら部屋の中を突き進み、窓際の一番端の席に腰を下ろした。



机の上に鞄から出した教科書やノートを広げていると、



「お隣、よろしいですか?」



品の良さそうな女子の声が聞こえてきて、美紅以外の女子と馴れ合う気のない右京は眉間に皺を寄せる。



「座るところなんてもっと他にあるんだから、わざわざ俺の隣でなくても――」



睨み上げるようにして顔を上げると、



「……は? 天野?」



目の前には、ニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべた天野が。



「……お前、あんな声も出せるのか」



あまり言いたくはないがなかなかの美声だったので、その声の主が天野だとは驚いた。



「一応、百貨店で販売員をしておりますので。営業ボイスでございます」



仰々しく頭を下げる天野に、右京はひたすら鬱陶うっとうしそうな視線を投げかける。



「何の用だよ」



「放課後はいつもさっさと帰っちゃう先輩が、こんなとこにいるの珍しいなーって」

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