第89話

「右京先輩もさ、最近は登下校の時しか一緒にならないんでしょ? 前は休み時間にもしょっちゅう来て美紅にちょっかいかけてたのに」



「……」



そう。



何故か最近、右京は美紅のことを避けている気がするのだ。



まるで決まりごとのようになってしまった登下校の間だけは、一緒に過ごしているけれども。



「本当はさぁ……右京先輩のこと好きになっちゃったんじゃないの?」



天野にこっそりと耳打ちされて、



「……っ!」



美紅は顔を真っ赤に染めて、言葉に詰まった。



「え……?」



冗談のつもりで言った天野は、美紅の反応に驚いて目を点にして固まり、



「おぉ……」



話の内容は聞き取れなかったが、美紅の恥ずかしそうな表情を見た周りの男子たちは、その可愛さに見惚れた。



(右京先輩……うかうかしてたら、他の男に間宮持ってかれちゃうぞー)



天野は天井を見上げ、おそらくは三階の教室で自習をしているであろう右京に向かってそんな忠告を、テレパシーが使えるかは分からないがとりあえず念じておいた。

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