第88話

「何とかならないのかねぇ、そのジメジメは」



突然始まった職員会議のお陰で各クラス自習となった五限目。



教師たちが見ていないのをいいことに、生徒たちは各々好きな席へと移動してお喋りを楽しんでいた。



シャープペンシルを片手に、窓の外で降りしきる雨をぼんやりと眺めていた美紅に、勝手に隣の席に移動してきた天野がそんな声をかけてきて。



「ね。梅雨入りしたもんね」



連日続く雨と高い湿度に嫌な気分になる。



窓の外を見上げたまま、可愛いレインブーツでも買って気分を上げようかな……なんてぼんやりと考えていると、



「いや、雨じゃなくてアンタの話よ」



窓と美紅の仲を裂くように、天野が仁王立ちして見下ろしてきた。



「へっ? 私の髪、そんなに湿気にやられてる!?」



慌てて両手で頭を押さえる美紅に、



「美容の話なんてしてない! アンタの顔が辛気臭いって言ってんの!」



天野はビシッと人差し指を突きつけた。



校内一の美少女の顔に向かって何か凄いことを言っているな、とクラスメイト達の視線が一瞬だけ天野に集中した。



だが、関わりたくはないのでまた視線を外してお喋りを再開し、元の騒がしい空気へと戻る。



「右京先輩と、何かあったの?」



右京、と聞いた瞬間に美紅の体がびくっと強ばり、思わず俯いた。

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