すれ違う想い

第86話

翌朝。



いつものように、美紅が駅の改札をくぐると、既に待っていた右京が朝の挨拶と共にそっと近付いてくる。



沢山泣いて腫れてしまった瞼を見られたくなくて、俯きながら小さく挨拶を返すと、



「……何か、辛いことでもあったのか?」



屈んで美紅の顔を下から覗き込んだ右京が、美紅のぷっくりと腫れた瞼に指先でそっと触れた。



その瞬間、



「……っ」



美紅は右京のことを意識しすぎているので変に緊張してしまい、びくっと震える。



「……悪い」



それを拒絶と勘違いした右京が、慌てて美紅から手を離した。



昨日、美紅の想い人である武巳から美紅への気持ちを聞いたばかりなので、彼女の反応にはいつも以上に傷付いた。



両想いなのに、付き合わない二人。



そんな二人にとって、自分はきっと邪魔者でしかない。



それは分かっているのに……少しでも何か理由をつけて、彼女の傍にい続けたいと思う。



満員電車の中で、美紅が押し潰されてしまわないように、右京が腕の中に彼女を収めて守る。

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