第85話

……武巳が高校生の頃、初めての彼女が出来たと聞いた時でも、悲しいとは思ったが泣く程ではなかったのに。



今日美紅を送ってくれた時の右京は、あの後に予定でも入れていたのか、そわそわと落ち着きがなさそうに見えて、美紅にはそれがとても寂しかった。



あの様子は、きっとデートの待ち合わせ時間が迫っていたに違いない。



右京が他の女性と一緒にいるところを想像しただけで、胸が張り裂けそうになる。



いつも美紅の髪をふわりと撫でてくれるあの優しい手で、彼女にはもっと優しく触れているのかな、なんて想像を膨らませてしまって、



「ふっ……うぅ……」



余計に涙が止まらなくなった。



(……私のことだけ、見てて欲しい……)



そう思ってしまってから、



(え? もしかして、私……右京先輩のこと……!?)



今更ながらにそんなことに気が付いて、



「うぅ……ひっく……」



もっと早くに気が付いていれば、今とは何かが違ったかもしれない、なんて考えてしまって。



壊れたように溢れ出てくる涙は、もう自分の意思では止められなかった。

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