第84話
右京と武巳が仲良く食事をしていたその頃、美紅は――
「はぁ……」
いつもなら夕食を先に済ませるのだが、今日はなんだか食欲が湧かず、とりあえずゆっくりと入浴をしていた。
湯船に肩までしっかりと浸かり、
「はぁー……」
もう本日で何度目なのか分からない溜息をつく。
右京に好きな人について聞かれた時の、彼の悲しそうな顔が脳裏に焼き付いて離れない。
自分はしっかりと彼女がいるクセに、どうしてそんなヤツにあんな顔をされなくてはならないのか。
腹立たしく思うのに、
「……っ」
彼の顔を思い出しただけで、胸が締め付けられたように苦しくなる。
この感情が何なのかが全くわからなくて、不安になる。
それなのに、
(先輩に……会いたい)
そんな風に思ってしまうのは、武巳に意識されなさすぎて、他に逃げようとしているからなのかもしれない。
そんなのは最低だし、誰も幸せになれないと分かっているのに。
今頃、彼は例の彼女と会ったりしているのかな……とか考えて、
――ポロッ……
「え……」
美紅の瞳から突然零れた雫が、湯船にぽとりと落ちて小さな波紋を描いた。
それは最初の一粒を皮切りにして、次から次へとどんどん溢れてくる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます