第84話

右京と武巳が仲良く食事をしていたその頃、美紅は――



「はぁ……」



いつもなら夕食を先に済ませるのだが、今日はなんだか食欲が湧かず、とりあえずゆっくりと入浴をしていた。



湯船に肩までしっかりと浸かり、



「はぁー……」



もう本日で何度目なのか分からない溜息をつく。



右京に好きな人について聞かれた時の、彼の悲しそうな顔が脳裏に焼き付いて離れない。



自分はしっかりと彼女がいるクセに、どうしてそんなヤツにあんな顔をされなくてはならないのか。



腹立たしく思うのに、



「……っ」



彼の顔を思い出しただけで、胸が締め付けられたように苦しくなる。



この感情が何なのかが全くわからなくて、不安になる。



それなのに、



(先輩に……会いたい)



そんな風に思ってしまうのは、武巳に意識されなさすぎて、他に逃げようとしているからなのかもしれない。



そんなのは最低だし、誰も幸せになれないと分かっているのに。



今頃、彼は例の彼女と会ったりしているのかな……とか考えて、



――ポロッ……



「え……」



美紅の瞳から突然零れた雫が、湯船にぽとりと落ちて小さな波紋を描いた。



それは最初の一粒を皮切りにして、次から次へとどんどん溢れてくる。

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