第82話

武巳の注文したハンバーグステーキセットと右京の豚の生姜焼き定食がやっと届いて、右京がマスクをそっと外す。



随分と薄くはなったが、まだ目立っている頬の痣に武巳は一瞬驚いたが、口には出さずにハンバーグにナイフを入れた。



ギコギコとナイフを動かしながら、



「美紅の中で“異性”って俺だけなんだよね」



苦笑まじりに語り出した武巳の顔を、右京が不思議そうに見る。



「美紅って大人しいからさ。男と話すのも苦手みたいで、気軽に話せる男が父親以外だと俺だけだから」



「……」



言われてみれば右京も、今でこそ美紅とは普通に会話が出来ているが、最初の頃は相槌あいづちを打つ程度の反応しかもらえなかった。



「美紅なら男なんて選びたい放題なのに、俺しか知らないから。だから、他にもいいヤツがいっぱいいるって知った時、あいつに捨てられるのが怖いんだ」



武巳は、“あちっ”と言いながら一口サイズにカットしたハンバーグを頬張る。



それをごくんと飲み込んでから、



「他のいいヤツを知った上で、それでも俺のことを好きでいてくれたら……その時はちゃんと告白するよ」



フォークですくったライスをかき込んだ。



「それよりも前に美紅の方から告白されたら?」



味噌汁をすする手を止めて真っ直ぐに見てくる右京に、武巳はハハッと苦笑する。

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