第80話

「俺も、美紅のことは昔からで見てたしね」



「……!」



美紅の片想いなのだと思っていた右京は、驚いて黙り込む。



(最初から、俺の入り込む隙間なんてなかったんだな……)



美紅の幸せを願っている右京には、二人の仲を裂こうなどという考えは全くなかったが、最初から両想いだったとは思わなかった。



川上はきっと、武巳に噂話を聞かせて美紅の恋路を邪魔するつもりでいたのだろうが。



わざわざ右京が守ろうとしなくても、きっと彼が最初から美紅のことを信じて守ってきていたに違いない。



むしろ、美紅を守ろうと空回りしていた自分が、二人にとって一番邪魔な存在だったのかもしれない。



右京は俯いて、未だに外さないマスクの下で唇を噛み締めた。



「ちょっと分かんないんだけどさ。美紅には散々ちょっかいかけてたクセに、あの子の恋は応援してるって矛盾してない?」



右京の様子をずっと観察していた武巳が、意地悪そうな笑みを消して真顔に戻る。



「……俺にも、よく分からないです。美紅が俺のことを好きになってくれたらいいなと思って近付いたんですけど……でも、美紅が好きな相手から誤解されるのは、俺も聞いてて辛いので……」



「……」



右京は武巳が予想だにしないことばかりを言うので、なかなかテンポ良く会話が続かない。

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