第77話

――その日の昼休み。



「はぁ……参ったな」



職員室から出てきた右京は、扉を閉めてすぐに大きな溜息をついた。



『川上』という名前の女子生徒の存在を確かめようとして、周りの生徒たちに訊ねるとなると、“お前の元カノだろ?”とからかわれることは目に見えていたので、それはやめにした。



欲しいのは、確かな情報。



校内ではなるべく関わりたくないと思っていた父に聞くのが一番確実だろうと思い、わざわざ昼休みに職員室こんな所まで来たわけだが……



川上という名の在校生は、確かに存在した。



でもそれは二年生の男子生徒で、右京とも美紅とも関わりのない人物だった。



そうなると、美紅の想い人に会いに行ったのは、川上しかいない。



あれ程、美紅には何もするなと忠告しておいたのに。



きっと飯田を使いパシッて美紅のことを調べさせ、美容師に接触したのだろう。



文句の一つでも言って、二度とこういうことをしないと約束させたいが、右京はもう川上の連絡先を知らない。



美紅を川上から守るために、いつも以上に気を付けて生活しなければならないが……



美紅の恋路を邪魔したくないとも思っている右京にとって、それは苦しい選択。



やめた方がいいことは分かっているのだが――



この日の放課後、右京はいつも通りに美紅を送り、少し時間を置いてから武巳の勤め先である美容院へと行ってみた。

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