第76話

「……一応」



右京にはっきりと訊ねられて、なんだか気まずさを感じた美紅は、そんな曖昧あいまいな答え方をしてしまった。



……何故か、右京にはあまり武巳のことを聞かれたくないと思ってしまう。



川上という女子生徒のことが凄く気になるので、どうしても話さないわけにはいかなかったのだが。



「……分かった。該当するやつがいないか、俺の方でも調べておく」



右京がそう告げた時、ホームに電車が滑り込んできて、二人の会話が止まった。



車両のブレーキをかける音がホームに響いている最中に、



「好きな相手の誤解を生むようなことをして、悪かった」



右京に何かを言われた気がしたが、



「えっ?」



美紅にはよく聞き取れず、マスクで口元が隠れているので本当に何かを言っていたのかが定かではなく、



「……」



右京も、何事もなかったかのように振る舞うので、美紅はそれ以上は何も聞くことが出来なかった。

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