第75話

翌朝。



右京がいつも通りに駅の改札内で美紅を待っていると、ぶすっとした不機嫌そうな美紅がやって来た。



「おはよう」



「……おはようございます」



普段はヘアアクセなども付けない美紅にしては珍しく、ピンクの花飾りの付いたヘアピンで前髪を留めていて、



「そういう顔も可愛いな」



ぶすっとした顔も含めて、右京が褒めた。



二人で並んでホームへと続く階段を下りる。



「美紅もアクセサリーとか付けるんだな」



「幼なじみが美容師見習いをしていて、もらったんです」



昨日、美紅の機嫌を損ねてしまった武巳が、慌てて美紅にくれたのがこのヘアピンだった。



美紅自身も気に入ったので付けてきたものの、昨日のことを思い出すと、やはりムスッとしてしまう。



「右京先輩。檸檬高の在校生で川上っていう女子生徒、知ってますか?」



川上、と聞いた瞬間に、右京の目つきが鋭くなる。



「……なんで、そんなことを聞く?」



その険しい表情に美紅は少し怯えつつ、



「えっと、実は……」



昨日、武巳から聞いた話をそのまま右京に伝えた。



美紅の話をずっと黙って聞いていた右京は、全てを聞き終えてからまず最初に、



「……その幼なじみの美容師が、美紅の好きな人なんだな?」



酷く悲しそうな目をしてそう訊ねた。

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