第74話

「それより、誰がそんなこと……」



美容師に振る話題にしては、不自然すぎる気がする。



「んーと……確か名前は川上さん、だっけな?」



美紅の髪を丁寧にくしきながら、武巳が首を捻った。



「え……」



予想外すぎる名前の登場に、美紅は後ろの武巳を勢いよくぐりんっと振り返る。



「ちょっ、スタイリング中に振り返るな! 危ないから」



武巳に両耳の辺りを両手でぐっと挟むようにして前を向かされて、



「ねぇ。その人、本当に檸檬高の制服着てたの?」



それでも美紅は、武巳のなすがままにされながら質問をぶつけた。



「うん、美紅とおんなじ。知ってる子?」



「……ううん、知らない」



檸檬高にの川上という少女なんて、少なくとも美紅の方は知らない。



だが、これがもし、あの右京の彼女だと噂の川上なら……?



可能性はゼロではないが、編入前の学校の制服を着て、初めて会う美容師に美紅の噂を吹き込む意味が全く分からない。



「とりあえずさ、美紅」



武巳にまた顔を覗き込まれて、



「美紅に彼氏はまだ早い! 学生の間はまずは勉強に集中しなさい」



明らかに子供扱いするような説教を食らい、



「……もう! 武巳なんて嫌い!」



美紅は頬を膨らませて思い切りねた。

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