本当の気持ち

第72話

武巳との約束は、彼の休日である月曜日に、美紅の学校が終わり次第に彼の暮らす実家で果たされることになった。



雨の降る中、わざわざ寄り道してやったというのに、



「うわぁ……今日の美紅の髪、湿気でゴワゴワだね」



「……」



本当に普段から接客をしているのかと疑いたくなる程に、武巳には年頃の乙女を気遣う優しさというものがない。



さっきまで一緒にいた右京との会話を、無意識に思い出してしまう。



『いつも綺麗な美紅の髪でも、梅雨時の湿気には勝てないんだな』



そう言いながら美紅の髪を撫でてきた右京がぽつりと漏らした“可愛い”という言葉が、やけにむず痒くて。



指摘されたくない恥ずかしい部分に対してまでそんなことを言ってくる右京は、多分“可愛い”と感じるポイントが人よりかなり大きくズレている。



でも不思議と、それを不快だとは思わなくて、むしろ――



そこまで考えてから、美紅は慌てて目をぎゅっと強くつむって思考を振り払った。



折角、大好きな武巳と二人きりで過ごせる大切な時間に、他の人のことを考えてしまうなんて。



「ねぇ、武巳?」



「うん?」



美紅の髪をいじりながら、どうしようかと悩んでいる武巳に、



「武巳ならわざわざ私に頼まなくても、カットモデルを名乗り出てくれる人、いっぱいいるんでしょ?」



美紅は前から不思議だったことを訊ねた。



「……まぁ、いるね」

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