第71話

「もう、何なの……最っ低ね、アンタ!」



痣が濃く残る右京の腹部を、川上の拳が強く叩く。



「ぐっ……!」



思わず呻く右京に、



「もういい! 出てって! この不能男!」



川上は自らの体を布団で隠しながら泣き叫んだ。



……今更隠さなくても、川上の体に刻まれた赤い所有印が、昨日よりも増えていることに、右京はとっくに気付いていたが。



「言われなくても、俺は家に上がりたいなんて一言も言ってない」



川上に乱された衣服を整えて、右京はすっくと立ち上がる。



腹の痣が酷く痛むが、それを顔には決して出さずに、



「じゃあな、川上」



右京なりの訣別サヨナラの挨拶を告げて、部屋を出た。



その間も美紅の存在は頭の外に追いやったままだったが、駅に着いてホームに降り立った時になってようやく、



(美紅……)



愛しい彼女への想いをせた。



別に、抱かせて欲しいだなんてそんな汚れた欲は、美紅に対しては持ち合わせてはいない。



ただ、



(……会いたい)



純粋に、彼女の笑顔に癒されたいだけ。



痛む腹と、それ以上に苦しく締め付けられる胸の痛みで、すっかり心が折れそうになっている右京はそれでも、



「……」



美紅と連絡を取りたい気持ちをぐっと我慢して、一度開いた美紅のトークルームを、静かに閉じる。



そしてその代わりに川上のアカウントをブロックして、友達登録やトーク履歴も全て綺麗に削除した。

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