第70話

「……ねぇ。我慢してるの?」



いつもの川上のベッドの上で、彼女の不機嫌そうな声が響く。



「してない」



淡々と答える右京は、川上の目を真っ直ぐに見つめた。



「……っ」



今まで何度も行為を繰り返してきたが、行為の最中に右京と目が合ったのは、今日が初めてだった。



いつもは川上から顔を背けたり目を閉じたりして、彼女を見てくれたことなど一瞬たりともなかったのに。



それが、何故今日に限って――



やっと真っ直ぐに見てくれたのに、彼の体は一向に反応してくれない。



自慢の豊満な胸を触らせても、ダメ。



彼のそれを口に含んであの手この手で攻め立てて、一時間近く頑張ってみても――全くダメだった。



昨日した時は、普通に出来ていたのに。



今まで川上が相手をしてきた沢山の男たちは全員、この体を泣きながら喜んで抱いていたのに。



「まさかとは思うけど……いつも私としてる時、その美紅って子のこと想像してヤッてたわけじゃないよね?」



「……!」



突然出てきた美紅の名前に、右京の体がびくっと強ばった。



大切な彼女を思い浮かべただけで反応しそうになる体を、必死に抑える。



今のこの場だけは、美紅の存在を頭の中から完全に追いやらなければならない。



少しでも反応してしまえば、この女の思い通りにされてしまうから。

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