第69話

「知ってる。今年、檸檬高に入学してきた間宮 美紅って子でしょ?」



淡々と美紅の名を挙げた川上に、



「!」



右京が驚いて彼女の顔を見る。



今日初めて合った目は、不敵な光を放っているように見えて。



嫌な予感が、右京の背筋を一気に駆け抜けた。



「飯田に聞いたの」



質問などしていないのに、川上は勝手に語る。



「見たことないくらい可愛い子なんだって? 私より可愛いのかなぁ? そんなの聞いちゃったら、直接会ってみたくなっちゃうよねぇ」



「……」



「右京くんがこのまま帰っちゃうなら、今からその子のお顔を拝みに行ってみようかなぁ?」



川上は口先だけの女ではないと、今までの行動を目の前で見てきた右京はよく知っている。



「……美紅あいつにだけは、何もするな」



精一杯凄んでみせたが、



「じゃあ、私のこと引き止めてよ」



川上は余裕の表情であやしく微笑んだ。



「……」



仕方なく、右京は小さく溜息をつくと、靴を脱いで玄関を上がる。



「一応言っておくけど……俺はもう、お前とはどう頑張っても出来ないと思う」



「またまたぁ。強がらなくていいってば」



川上は急に上機嫌になり、自室のある二階へと続く階段へ、右京をいざなった。

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