第66話

美紅はというと、真っ赤に染まってしまった頬を両手で押さえたまま固まる。



「分かり、ました……」



何とかそう答えたものの、



(何、今の!? 何が起きたの!?)



美紅の脳内はパニックに陥り、記憶の抹消操作をするどころではなくなってしまった。



多分、さっき言われたあの言葉は一生忘れることはないと思う。



……無理してメイクする必要なんかないんだ、と言われた気がして嬉しかったから。



結局、事前に下調べをしていたコスメは何も買えず、風邪薬だけを購入して帰ることに。



電車に乗り、右京が降りるべき駅をいつも通りに乗り越して、美紅の自宅最寄り駅で二人して降りる。



改札口を出る前に、美紅が右京にお礼と挨拶をしようと振り返ると、右京は手にしていたドラッグストアの袋をがさがさと漁っていて。



そして、



「やる」



美紅の顔の前に突然ぶっきらぼうに差し出されたそれは、スーパーなどでもよく売られている大手菓子メーカーのカスタードプリン。



「えっ?」



「風邪ひいてるんだろ? だから、やる。見舞いだ」



驚きすぎて、言われた通りに受け取ることしか出来ない美紅に、右京はまたふわりと優しく微笑む。



「早く治せよ」



「ありがとうございます」



「ん」



満足そうに頷いた右京は、くるりときびすを返してホームの方へと戻っていく。



美紅は両手でプリンを持ったまま右京の背中を、姿が見えなくなるまで見送った。

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