第65話

「えっと、あの……」



手にしていたテスターを慌てて棚に戻すと、



「化粧なんかしなくても、美紅は今のままでも十分すぎるくらいに可愛いのに。欲張りだな?」



右京が美紅の目を見つめてふわりと微笑わらった。



「……っ」



いつも武巳に言われていることとは正反対のことを言われて、美紅はこういう時、何と返せばいいのか分からない。



「先輩は……ナチュラルメイクの女の子の方が好きなんですか?」



言ってしまってから、



(右京先輩の好みなんて聞いてどうするの!?)



美紅は内心で自分自身に激しく突っ込んだ。



だが、特に気にした素振りを見せない右京は、



「美紅に関して言えばナチュラルな方が可愛いとは思うけど、そうだな……」



真剣に答えを考えてくれているのか、顎に右手をやり難しそうな顔をする。



「……誰かに可愛いと思われたくて頑張ろうとするその気持ちがまず可愛いし、俺は美紅にそう思われている相手が羨ましいな」



真顔でそんなことを告げた右京は、



「……何か今、変なこと言った。悪いけど、今のは全部聞かなかったことにしてくれ」



一歩後ずさりをして、美紅から少しだけ離れた。

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