第64話

……やっぱり、今日の自分は何か変だ。



昨日の発熱をぶり返してしまったのかもしれない。



そう思うことにした美紅は、



「あの……ちょっと、そこのドラッグストア寄ってもいいですか?」



昨日切らしていることに気が付いた風邪薬を買って帰ることにした。



右京も使い捨てマスクの予備を買うと言うので、一緒に店に入る。



間宮家でいつもお世話になっている風邪薬の箱を手に取って、



「……」



なんとなく、コスメコーナーの方も覗いてみる。



ネット検索して気になっていたリップティントのテスターを手に取り、棚に備え付けられている紙に少しだけ塗ってみた。



確かに発色はいいけれど、ちょっと色が濃いような――



「その色は美紅には少し派手なんじゃないか?」



マスクのコーナーに行っていたはずの右京の声がすぐ耳元で聞こえて、



「――っ!?」



美紅は上げそうになった悲鳴を、手で口を押さえて慌てて飲み込んだ。



「化粧品を買うのか?」



心臓をバクバクさせている美紅に構わず、右京は興味深そうに美紅の手元を覗き込む。



もうお会計を済ませてきたのか、右京の左手には、この店のロゴが入った袋が一つ提げられていた。

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