第60話

「それにしても……高嶺の花同士がこうして並んでるとやっぱりお似合いだよなぁって思っちゃうよね」



美紅と右京の噂が嘘であることなど、天野は勿論知っているが、



「いっそのこと、本当に付き合っちゃえばいいのに」



右京の気持ちにも気付いてはいるので、彼の煮え切らない態度には以前からイライラしていたのも事実。



強制的に話題をそちらへと持っていった。



場合によっては本気で怒らせてしまうかもと覚悟はしていたが、



「……っ」



天野の予想に反して、動揺したのか言葉を失くした右京は、美紅たちから慌てて顔を背けた。



「え……?」



そして、その動揺は隣を歩いていた美紅にも伝染する。



武巳に片想い中である自分と、他校に彼女がいるらしい右京が本当に付き合いを始めるなど、絶対にありえないと思っているから。



すぐに否定をしない右京を不審に思いつつ、



(右京先輩って、まさか……でも、そんなはずは……)



ありえない可能性を考えてしまって、美紅は慌ててかぶりを振った。



右京が何も言わなくなってしまったのが気まずくて、



「あの、先輩……」



助けを求めて声をかけようとしたが、



「じゃあな、美紅。終わったらまた迎えに行く」



丁度、靴箱の前に到着してしまい、右京は逃げるようにして自分の靴箱の方へと行ってしまった。

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