第59話

学校に着くと、浴びせるようにして一斉に注がれる視線に、目立つことを嫌っている美紅は耐えきれずに俯いた。



校門から靴箱までの距離が、今日はやけに長く感じる。



右京と並んで歩くとチラチラと見られることは増えるが、それにしても今日は異常だ。



ジロジロどころか、皆揃いも揃って遠慮の欠片もなく不躾ぶしつけにじーっと凝視してくる。



二人が付き合っているという噂のせいなのか、それとも昨日の右京の傷害事件のせいなのか、はたまたその両方か。



右京は周りの視線など気にしていないのか、それとも元から気にならないたちなのかは分からないが、美紅の隣を平然と歩く。



美紅には右京の表情は平然そうに見えたのだが、



「先輩、今日はやけに機嫌が良さそうですね?」



後ろから右京を追い越した天野が、彼の前に回り込んでその顔を覗き込むようにして見上げた。



「天ちゃん! おはよ」



美紅はすぐに笑顔で挨拶をして、天野も“はよー”と笑顔で返したが、



「……」



右京は天野には何も返さず、マスクの下の顔を真顔に戻す。



「あ。でもやっぱり、ほっぺは相変わらず痛そうっすね」



天野はまるで自分が痛いかのように顔をしかめて、自分の左頬を指差した。



「そんな痛そうな顔で、何を嬉しそうにしてたんですか? もしかしてドMなんですか?」



「……お前の変態嗜好を、俺に押し付けるな」



右京は酷く疲れたような溜息をついた。

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