揺らぐ花

第57話

もう一日休んだ方がいいと言う両親を振り切って、美紅は翌朝、いつもの電車に乗ろうと自宅最寄り駅の改札口をくぐった。



「もう大丈夫なのか?」



入ってすぐ、そこで待ち構えていた右京に声をかけられた。



……美紅が多少の無理をしてでも登校しようとしたのは、これが原因だ。



右京の連絡先を知らないので、休む場合はそれを彼に伝える手段がない。



そうなると彼は、この駅で無駄に美紅を待ち続けることになるから。



「今日は休むだろうと思ってたから、いつもの電車の時間になっても来なかったら先に行こうと思ってたんだ」



美紅の考えが読まれたのか、右京はそう言って彼女の頬にそっと手を触れる。



美紅は右京の考えていることが分からず、彼の目をじっと見上げてみたが、いつも通りのその黒目がちの瞳からは、何も読み取れなかった。



ただ、顔の痣を隠すためのマスクが痛々しく見えるだけ。



「右京先輩こそ、大丈夫なんですか? 凄く痛そうですけど」



美紅の台詞に、右京が何故か嬉しそうにニコリと微笑んだのが、マスク越しでも伝わってきた。



何が、そんなに嬉しいのだろう。



そうは思ったが、そろそろ時間がないので、見なかったことにしてホームへと急いだ。

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