第56話

「ありがと」



とりあえず受け取り、自分でふーふーと冷ましながら食べていると、



「あっ……お母さんが、美紅ちゃんにあーんしてあげた方が良かったのかな?」



母が慌てて美紅の方を見た。



(……なるほど。お母さんが風邪ひいた時は、お父さんがあーんしてあげるのが当たり前だったのか)



美紅はそう思ったが、余計なことは何も突っ込まず、



「ううん、自分で食べられるよ。ありがとう」



母に大丈夫なことを証明するために、また一口、自分でスープを口に運んだ。



相変わらず愛情たっぷりの優しい味が、凄く美味しかった。



……自分の両親を羨んでばかりいても仕方がない。



今はとにかく風邪を治して、遅れた分の勉強も巻き返して――



武巳に、美紅のことを女性として意識してもらえるよう、努力を積み重ねていくのみ。

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