第55話
「ナオくーん! 美紅ちゃん、スープ食べるって」
美紅の部屋の扉から廊下に顔を出した母が、キッチンにいる父に向かって呼びかけた。
しばらくしてから、オニオングラタンスープの入ったスープマグとスプーンを二つずつトレーに乗せた父が、美紅の部屋にやってきた。
「ゆづの分も持ってきたから、二人で一緒に食べな」
そう言って母にトレーを渡す父。
その束の間に見つめ合って微笑む二人を、美紅は熱でぼんやりする視界でぼーっと眺めていた。
『ナオくん』、『ゆづ』と未だにお互いを愛称で呼び合う両親は、娘の立場から見ていて恥ずかしいと思うこともある。
けれど……自分もいつか大好きな人と結婚して家庭を築けたら、そんな夫婦になりたいという憧れもある。
幼なじみ同士で大人になってから付き合い出した二人は、そのまますぐに結婚したとは聞いているけれど、この二人にはきっと切ない片想いなんて無縁だったんだろうなぁと、今の二人を見ていて思う。
現在、武巳に絶賛片想い中なのに、全く好きでもない男と校内で噂になってしまった美紅の気苦労なんて、きっとこの二人には分かるまい。
父が部屋を出ていき、母が美紅のベッドの隣に椅子を寄せてきた。
笑顔で美紅のマグカップとスプーンを差し出してくる母を見ていると、羨ましい気持ちでいっぱいになる。
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