第53話

川上が右京と別れてくれない限り、右京が本当に恋をしている相手に気持ちを打ち明けることが出来ない。



体を洗いながら、ふと愛しい彼女の顔を思い浮かべて、



(告白して振られたとして……俺は、美紅を諦められるのか……?)



そんな疑問にぶち当たった。



……いや、振られるのは確実だ。



彼女には他に好きな人がいるのを知っているし、彼女がその相手といるところを偶然見てしまった時に、思い知らされたから。



――自分には向けられたことのない、美紅のキラキラとした真っ直ぐな眼差しは、その相手にしか向けられていなかった。



だが、それを目の当たりにしてもなお、右京は美紅のことを未だに諦めきれないでいる。



右京が美紅にはっきりとした気持ちを伝えないので、彼女も拒絶の意をはっきりと示すことが出来ないというこの状況を、利用し続けているのだから。



「……っ!」



つい、擦りむいた左肩の傷をこすってしまい、右京は痛みで顔をしかめた。



……これは、きっと罰なのかもしれない。



自分の気持ちと美紅の返事から逃げ続けていることへの、戒め。



けれど、だからと言って右京の気持ちは変わらない。



今は、ただ……美紅との関係を崩さず変えず、もう少しの間だけ、彼女と一緒にこのままの日常を過ごしていたい。



「はぁ……」



怪我の痛みと胸の痛みを逃すべく、右京は小さく溜息をつきながら、また熱めのシャワーを頭から被った。

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