第52話

熱めのシャワーを勢いよく浴びて、



「っ……」



体の怪我は痣だけでなく、所々を擦りむいてもいるのだと、この時になって初めて知った。



今までの行いの報いというやつなのだろうか。



今日殴られたことに対して、別に怒りなどは湧いてこない。



ふと、自分の胸元に刻まれた所有印の存在に気が付いた。



痣だらけの恋人の体を見て、そこへ更に所有印を刻もうというのだから、あの川上という女は相当に狂っていると思う。



自分の体にも刻んで欲しいとせがまれたが、それははっきりと断った。



川上は気付いていないようだったが、髪をかき上げた時のうなじ部分に、右京には全く記憶にない所有印があった。



川上とをしたのは一ヶ月ぶりくらいで、前回もアトなんて付けた覚えはない。



まだ新しいあの印は、おそらくは川上のことを大好きだと言うあの飯田いいだとかいう男が付けたものだろう。



大事になんて全く想えない肩書きだけの恋人なのだから、そんなものを見せつけられたところで、嫉妬心なんて微塵も湧いてこないが。



右京のことをあれだけ大好きだと言いながら、他にも複数いるであろうセフレを持つ川上が、全く理解出来ない。



他にも相手がいるのなら、その相手にも悪いから恋人を辞退したいと願い出たこともあったが、



『全然構ってくれなくて寂しい思いをさせた右京くんが悪い!』



と言って、別れてはもらえなかった。

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