第51話

「お前、そんな顔で明日から学校行けるのか?」



右京が洗面台の鏡と睨めっこをしていると、父と母が二人揃って洗面所の入口から心配そうな顔を覗かせた。



両親の顔を鏡越しに確認して、



「……マスクして行くから、何とかなる」



適当に答えた。



「……」



「……」



心配そうな顔をしたまま、夫婦で互いの顔を見合わせる。



そんな二人の様子を鏡越しに見せつけられた右京は、自分の状況と両親たちとの差を思い知らされ、ますます惨めな気持ちになった。



右京の父・唯と母・姫花ひめかは元は幼なじみ同士で、互いに恋愛経験は今の相手だけという純愛を貫いてきたらしい。



息子の目線から見ても痛いと思える程に、両親は今もとても仲がいい。



だが、幼い頃から“夫婦とはそういうものなんだ”と思って育ってきた右京には、実は自分の両親が一番身近な憧れだったりもする。



だからこそ……初めて本気で惚れてしまった相手のことを、諦められないでいるのだ。



「そういえば、右京……お前、俺のクラスの間宮との変な噂が流れてるけど、あれは何なんだ?」



“他校の川上と付き合っている”という噂も勿論知っている父が、険しい顔をして訊ねてきた。



「お前、自分がちょっとモテるからっていい加減なことばっかしてると――」



「今からこのまま風呂入るから、出ていってくれ」



右京が父の言葉を遮り、脱衣所も兼用している洗面所の扉を勢いよく閉めた。

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