第50話

「……心配かけて、悪かった」



ぼそりと呟くように言えば目の前の父は、はぁっと疲れた溜息をつき、道をあけてくれた。



そのまま真っ直ぐに洗面所へ向かい、足元に鞄を下ろした右京は手を洗うと、おもむろに顔へと両手をやる。



左手で瞼を押さえ、右手の親指と人差し指で摘むようにしてコンタクトレンズを取り出す。



外れたコンタクトは全体的に黒く色付いており、外したそこには母と全く同じ、蒼く煌めく瞳があらわになった。



もう片方の目も同じようにコンタクトを外し、鏡の中に現れた蒼眼の自分と睨み合う。



右京が美紅に対して秘密にしていたことは、名前だけではない。



普段はカラコンで目を黒く見せているが、本当は蒼眼である、ということも隠していたのだ。



目の色に関しては、あの学校で知っているのはおそらく父だけ。



右京が小学生の頃、クラスメイトから目の色が気持ち悪いとからかわれてから、これがずっとコンプレックスだった。



特に美紅には、このことを知られたくない。



今朝、殴られた時に衝撃でコンタクトが外れていたらどうしようかと一番に心配してしまったくらい、右京の中ではとても大きな悩みなのだ。



美紅は人の見た目についてとやかく言うような子ではないと分かってはいるが、それでもやはり、本音ではどう思うのかを考えると……怖い。

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