第42話

美紅が早退するところを見送ったので、今日は一人で帰ることになるのか、とぼんやり考えていた右京は、不意にズボンのポケットからスマホを取り出した。



「あ、こら。先生の前で堂々とスマホを出すな」



痣の目立つこの顔では教室に戻れないだろうという中村の気遣いのもと、右京はこの日は保健室で自習をして過ごすことになった。



中村の注意も華麗に無視をしながら、スマホに届いていたメッセージを開く。



それは他校に編入したという右京の“噂のカノジョ”である川上からのもので。



『右京くん、今度はいつ会える?』



ウサギのキャラクターがもじもじしている可愛らしいスタンプと共に送られたそのメッセージに、



『今日なら放課後すぐに会える』



とだけ返信した。



今は向こうも授業中だし返事はしばらく来ないだろうと思って画面を閉じると、すぐにメッセージが届いたことを知らせる通知が浮かび上がった。



再びトーク画面を開くと、



『やったー!』



とハート付きのメッセージ。



「はっ……」



美紅とは正反対で可愛い反応を示す川上に、右京は複雑な気持ちになって、そんな自分に自嘲する。



そんな右京を、机に向かって事務仕事をしていた中村がちらりと横目で見て、



「フラフラしてると、後で絶対後悔するぞ」



誰に言うでもなくぼそりと呟いたが、右京は聞こえないフリをしてスマホをポケットにしまうと、何事もなかったかのように自習を再開した。

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