第41話

右京の左頬には紫色の痣が出来ていて、唇の左端には血が滲んでいた。



「おおぅ……国宝級イケメンの顔が台無し……」



天野が正直な感想を漏らし、



「先輩……その顔……」



天野の肩越しに右京と目が合った美紅は、震える指で右京の左頬を指した。



「自分は色男だーって調子に乗ってるから痛い目見るのよ」



養護教諭の中村なかむらが、面倒そうな溜息をつきながら言い放った。



「去年、この学校から編入していった子のことを好きだったヤツに殴られちゃったのよね」



「……」



右京は答えず、気まずそうにぷいっと顔を背けたが、



「こら、動かない」



「いっ……!」



中村に顔をガシッと固定されて、傷が痛んだのか痛そうな悲鳴を上げた。



美紅はヒソヒソ話をされただけで済んだが、右京は傷害事件にまで発展していたようだ。



右京に比べたら自分はまだマシな方かなと思い始めた美紅に、



「間宮さんはもう帰りなさい。顔色が良くないわ」



中村は右京の口元の血を拭きながらそう告げて、



「天野さんは元気そうだから教室戻りなさい」



「えぇーっ!」



天野はぶぅぶぅと文句を垂れ流しながら保健室を出て行った。



「……美紅。一人で帰れそうか?」



痛々しい顔に心配そうな表情を浮かべる右京に美紅は、



「はい……お先に失礼します」



ぺこりと一礼だけして、自分の鞄を持って保健室を出た。

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