第38話
――校内での色恋事の噂は、一瞬で広まる。
美紅がそれを痛感したのは、右京が榎本の前で『交際宣言』をした日の翌朝だった。
噂は尾ひれ背びれを付けて流され、
“間宮が川上先輩から右京先輩を奪った”
とか、
“右京先輩が川上先輩と間宮で二股をかけているらしい”
とか、
“右京先輩が複数関係を持っているセフレたちに間宮が加わった”
などなど。
学校に到着するなり、隣を歩く右京と共に注目の的になり、彼は俯いて歩く美紅の頭をポンと優しく撫で、一言。
「これで、美紅に言い寄ろうとする男はいなくなるな」
「……」
そこは普通、
“俺のせいで誤解を生んでごめん”
ではなかろうか?
それを、何故この右京という男は、そんなふざけた台詞を嬉しそうな笑顔で吐き出せるのだろう?
一発と言わず、百発くらい殴ってやりたい――両手を使って、ポカポカと。
渦巻く殺意を抑えながら右京と別れ、一階にある自分の教室へと向かうと、
「あっ。来た」
今の今まで美紅の噂話でもしていたのか、そんな声が聞こえてきて、一瞬で静まり返る教室内。
美紅は気にしないフリをしつつ、自分の席に着いた。
それを見守っていたクラスメイトたちは、また小声でひそひそと噂話を始める。
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