第37話

ロッカーの名前は、三年生の教室まで行かないと見られない。



だが、靴箱に貼られた名前は美紅でも勝手に見ることは出来るし、なんなら天野やこの学校の先生たちに聞けば分かることなのだが。



そんな嗅ぎ回るようなことをしてまで知りたいのかと思われるのが嫌で、美紅は知らないままでいいかと放置している。



要するに、今まで知らなかったのは美紅の意地だ。



知ったところで、今まで通り苗字でしか呼んでやる気がないので、全く不便はしないし。



「これからは俺のことを下の名前で呼ぶというのが絶対条件だけどな」



「絶対に呼びたくないので絶対に教えないで下さいね」



冷ややかな目と声で即答した美紅に、



「……そうかよ」



先程まで嬉しそうに笑っていた右京は、また美紅からぷいっと顔を背けた。



そうこうしている間に辿り着いた靴箱で、名札を見てみたい衝動に駆られそうになりながらも、美紅は真っ直ぐに自分の靴箱に向かう。



その後ろ姿を見送った右京は、



「……はぁ」



美紅にバレないように、小さく溜息をついた。

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