第35話

「……ん? 誰だ、それ。そんなやついたか?」



しれっと答えた右京に、



「信じらんねー。川上あいつがどんな思いでこの学校出ていったと思って……」



榎本は呆れ果てて、最後まで言うのを諦めた。



そんな榎本に、



「おい。生徒会長のお前が、こんなとこでサボってていいのか? 部室の戸締り係なんだろ?」



右京は少し離れた所にある部室を顎でしゃくって示した。



振り返ると、そこには右京たちの異様な光景に驚いて廊下で立ち尽くしたまま動かない生徒会の部員たちが。



「お前、こんなことばっかしてたら、マジでいつか絶対後悔するからな!」



榎本は吐き捨てるように言うと、きびすを返して足音荒く部室の方へと歩いていった。



「俺たちも帰るぞ、美紅」



ここでやっと体を離した右京の顔を、美紅は慌てて見上げたが、



「……?」



その顔は背けられていて、身長差のある美紅からは右京の表情を確認することは出来なかった。



すたすたと先を歩く右京の背中を慌てて追いかけながら、



「生徒会があるから、先に帰ってて下さいって私、言いましたよね?」



とりあえず、答えてくれそうな話題を振ってみると、



「図書室で調べ物をしてたら、丁度美紅の終わりそうな時間になったから来てみただけだ」



嘘なのか本当なのか分からない答えが返ってきて。

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