第34話
「駅の近くにあるカフェにでも――」
榎本の誘い文句を、
「悪いけど、
耳に心地よく響く、少し低めの声が遮った。
それが誰の声なのか、考えるまでもなく分かってしまった美紅の体を、その誰かが後ろからふわりと抱き締めた。
「え……?」
状況が飲み込めず固まる美紅とその背後の誰かの顔を交互に見た榎本が、苦虫を噛み潰したような表情を見せる。
「……その子のこと狙ってるって本当だったのか、いち――」
「狙ってるんじゃない。もう付き合ってる」
何かを言いかけた榎本の台詞の上から被せるようにして、右京が大きめの声を出した。
いつも静かに淡々と話す右京にしては珍しい、その大きく鋭い声が頭のすぐ上から聞こえてきて、美紅は驚いてびくっと体を震わせた。
それを腕の中で感じ取った右京は、美紅を脅かすつもりなど微塵もなかったので、思わず舌打ちをする。
「だから、もう俺の美紅に近寄るな」
「……お前、川上と付き合ってるんじゃなかったのかよ」
他校へと編入していったという川上を、右京と同学年である榎本は当然知っている。
噂でしかなかった人物は実在したのだと思い知って、美紅の胸はまた勝手にズキンと痛んだ。
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